エムスリーテックブログ

エムスリー(m3)のエンジニア・開発メンバーによる技術ブログです

エムスリーの人事組織とエンジニアリング組織で活躍するHRBPの話

皆さん、こんにちは、こんばんは。エムスリーで執行役員VPoE兼PdM兼QA責任者兼デザイングループ担当役員をしている山崎です。エムスリーデジカルなど事業部門の責任者もやっています。

本日は、@iwashi86さんにお声がけ頂き、2/25(金)に収録して翌週3/2(水)に公開頂きましたfukabori.fmの「第68. エンジニアリング組織に溶け込むHRBP w/ yamamuteking」について補足記事を書きたいと思います。

fukabori.fm

ちなみに、Podcastはこちら、Spotifyはこちらです^^。また、過去出演した第59回第60回も人気とのことなのでリンクしておきます。

はじめに

昨今、戦略人事の文脈で新しい人事、人事組織のあり方が議論されています。Amazonで検索しても戦略人事関連の本は多数発刊されており、ハーバード・ビジネス・レビューでも人事、組織関連の特集は多くなってきています。その背景については諸説ありますが、私は中央人事組織がより戦略人事に向かって進化していることと、部門人事がHRBPなどの文脈でより高度に部門と統合されていっている点に注目しています。

これらはすでに専門書に詳しいですが、本日は、テックブログの読者に分かりやすいように解説できたら良いかな、と思って筆を取りました。

ちなみに先日のfukabori.fmの第68回で話した内容と基本的には同じ内容ですので、そちらを聞いた方は振り返りがてら目を通してみてください。

中央人事組織の戦略人事化

日本の人事組織の歴史を調べてみると、かつては明治時代に奉公人制度から社員制度に変わっていった経緯や、内部請負職人の直接雇用化、基幹社員と一般工員の格差など、いろいろなトピックが論じられています*1。その中でも、世界、日本で共通な直近の出来事として、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命から、1990年代から本格化した情報技術革命に移行しており、多くの企業で知識労働者=ナレッジワーカーが活躍するようになった背景があります。それまでは、いわゆるマニュアルワーカー(マニュアル化された業務に携わり、画一的に働く単純作業労働者)の比率が大きく、中央人事でそのリソースの配置やマニュアル化、トレーニングなどを検討していたものが、昨今ではよりナレッジワーカーに生き生きと仕事をしてもらうための施策や環境の整備に舵が切られています。

書籍としては以下のようなものが詳しいです。

また、事業競争の激化、少子高齢化、グローバル企業との人材争奪戦など、採用の環境も激化し、マッキンゼーでも20年前から研究が本格化しています。

突破口はHRBP

そんな中で、突破口となりそうなのがHRBPという比較的新しい人事のあり方です。こちらも専門書に詳しいですが、HRBPとはHuman Resource Business Partnerの略称で企業における人事機能の1つです。 人事機能の中でも特に事業部門の経営者や責任者のパートナーとして事業成長を人と組織の面からサポートする役割を担います*2。つまり、HRBPは、事業成長のために経営者や事業責任者に伴走し、事業成長のための問題解決を経営者や事業責任者とともに推進することが主要なミッションとなります。エムスリーでも現在、実験的にHRBP制度を導入し、人事部門の数名が、HRBPとしていくつかの事業部門に落下傘して活躍しています(いつも本当にありがとうございます😊)。

プロダクト開発文脈からのストーリー

また、このHRBPという役割は、プロダクト開発文脈から見ても注目されるべき役割です。

というのも、プロダクト開発の歴史を振り返ってみると、1950年代にソフトウェア・エンジニアリングという学術分野が誕生し、その中で軍事などを中心とした大規模開発の中でウォーターフォール開発などの開発プロセスが発達してきました。この中で、要件定義や設計を中心に行うシステムエンジニア、実装を中心に行うプログラマー、システムの品質を確認するQAの専門化が進みました*3。その後、1990年代になると、Webの時代になり、紙媒体で活躍していたデザイナーもプロダクト開発に合流するなどし、この時点で、昨今のプロダクトマネージャー、エンジニア、QA、デザイナーのプロダクト開発4職種が確立することとなります。

さらに、2000年代、2010年代になると、シリコンバレーのスタートアップを中心に、プロダクト開発=起業の構図が確立し、その中で、事業責任者やプロダクトマーケティングマネージャー、デジタルマーケター、デジタルセールス、カスタマーサクセスなどのいわゆるビジネスサイドの職種がプロダクト開発チームに統合され、昨今で言うPLG(Product Led Growth)な組織が確立していきます。

そんななか、2020年代に注目されているのが人事のプロダクト開発チーム統合、つまりHRBPのプロダクト開発チーム参画です。

エムスリーでの事例

エムスリーでは、エンジニアリンググループやデザイングループ、プロダクトマネジメント関連グループにHRBPを配置しています*4。各部門を統括する役員と伴走して、事業成長のための問題解決を経営者や事業責任者とともに推進することが主要なミッションですが、エンジニアリンググループでは具体的には以下のような軸で活躍してもらっています。

ハイレベルな人材をスピード感を持って採用するための採用活動及びそのための組織ブランディング

まずHRBPは、よりハイレベルな人材を必要なタイミングで、スピード感を持って採用するために、プロダクト開発チームの現状を正確に把握します。エムスリーのHRBPは現場にディープダイブし、プロダクト開発チームの朝会を始め、イテレーションプランニング、デモ、振り返りなどを通じて、チームのことをチームメンバー同等のレベル感で把握していきます。その中でスタックしているタスクや職種はなにか、2〜3ヶ月後に必要となる人材はどんなひとか、何がアピールできるのか、競合他社との売りの違いは、など多数の情報を立体的に理解し、組み立て、採用活動及びそのための組織ブランディングに活かしていきます。また、候補者と面接官のマッチング、面接官のトレーニング、カジュアル面談の活用などにも立体的な情報を組み合わせて、成果最大化のための最適化を行います。

優秀人材のリテンションとアサインメントの最適化

次にHRBPは、現場への落下傘を通じて、優秀人材のリテンションとアサインメントの最適化についても、経営者や事業責任者に最適な提案をします。例えば、朝会の発言から、チームメンバーそれぞれがどのような状態にあるのか、イテレーションプランニングや振り返りの発言から誰と誰の相性が良くて、誰と誰の相性が悪いのか、成果物についても、誰が目立っており、誰が縁の下で支えているのか、それらを常に把握して、アクションが必要になった際に正確な情報をインプットして頂いています。また、チームを超えて、アサインメントの調整が必要になった際に、タイムリーな情報をインプット頂けるのも大変助かります。

皆が生き生きと活躍するための、チャレンジマネジメント

最後にHRBPは、皆が生き生きと活躍するための、チャレンジマネジメントを行うための中心的な役割として機能しています。チャレンジマネジメントについては、fukabori.fmの第59回第60回に詳しいのですが、エムスリーでは、一人ひとりのエンジニアに生き生きと活躍してもらうために、一人ひとり個別にチャレンジをしてもらっています。個人の成果と事業の成長を接続するためにそれらのチャレンジを管理することを、私達はチャレンジマネジメントと呼んでいます。主にチームリーダーとグループリーダーがその設計を行うのですが*5、HRBPが現場で入手してきた立体的な情報を加味することで、この精度が上がります。また、仮説として行った打ち手に対して、それが響いているのか、そうでないのか、現場に落下傘したHRBPに直接、現地現認してもらうことによって検証することが可能になります。チームリーダーは原則としてエンジニアなので、エンジニアの目線、人事の目線それぞれで確認できるため、ここでも精度の高い検証が可能です。

まとめ

いかがだったでしょうか?

本日は、3/2(水)に公開頂きましたfukabori.fmの「第68. エンジニアリング組織に溶け込むHRBP w/ yamamuteking」について補足記事として、エムスリーの人事組織とエンジニアリング組織で活躍するHRBPの話を書いてみました。

エムスリーにおけるHRBPは、2017年度のVPoE設置時点で私がやりたいことだったので、実験的に進めさせてもらっていたのですが、こうして振り返ってみると、我ながら先進的な取り組みだったな、やっておいてよかったな、と心から思える施策です。

引き続き、皆が生き生きと活躍できる世界最高の組織を目指していきたいと思いますので、よろしくお願いします。Twitter(@yamamuteking)などで感想など頂けると大変嬉しいです。

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*1:https://cocotre.biz/column/4383/

*2:https://www.hrbrain.jp/media/human-resources-management/hrbp

*3:ちなみに話をもっと前に戻して、チャールズ・バベッジの解析機関やENIAC、EDSACなどになると、プログラムを考える人と入力する人がそもそも別れているのでは?パンチカードはどうした?など話がややこしくなるので、このくらいの時代スタートで。ちなみに世界最初のコンピュータプログラマーはチャールズ・バベッジの解析機関の著者のエイダ・ラブレスで、ADAという言語の…以下略

*4:その他、ビジネスサイドのいくつかの部門でもHRBPを配置しています

*5:エムスリーは非常にフラットな組織で、決裁上の役職階層が取締役会、経営会議の下に役員、グループリーダー、チームリーダー、メンバーしかありません