エムスリーテックブログ

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プロダクトマネージャーに商売センスが必要な理由と磨き方

こんにちは。エンジニアリンググループ プロダクト支援チームでPdMをしている中村です。この記事はエムスリー Advent Calendar 2025の19日目の記事です。 18日目は山本さんの「Google Cloud コンテナイメージの脆弱性スキャンを自作 OSS で運用する」でした。

画像はGeminiで生成しました。

はじめに

PdMにとって、担当プロダクトをいかに成長させるかは永遠のテーマであり、最も頭を悩ませる部分ではないでしょうか。私も日々、試行錯誤しながらプロダクトを成長させるための課題解決や新しいアイデアを考えています。そのような中で、CPO山崎に相談すると、議論の核心としてしばしば「商売センス」というキーワードが登場します。 また、社内のPdMが集まるPdM定例でも、商売センスというキーワードは頻繁に話題に上ります。

「プロダクトマネジメント」と「商売センス」。 一見すると距離がありそうなこの2つの言葉ですが、実は切っても切り離せない、PdMにとって非常に重要なスキルだと感じています。特にエムスリー社内で定義されているレベル3のPdM*1を目指すうえでは不可欠なスキルです。

今回は、なぜPdMにとって商売センスがそれほどまでに重要なのか、そしてそのセンスはどうすれば磨くことができるのかについて、私なりの考えと学びを共有します。

なぜPdMに商売センスが必要なのか?

ここでいう商売センスについて、ちきりんさんの著書「マーケット感覚を身につけよう」では、「マーケット感覚」という言葉で語られています。本書での表現を引用させていただくとマーケット感覚とは、「商品やサービスが売買されている現場の、リアルな状況を想像できる能力」です。

これはまさにPdMが、プロダクトのユーザー体験を設計するうえで、ユーザーがそのプロダクトに喜んでお金を払う姿を想像する力にあたります。

プロダクトマネジメントにおいて商売センスが活かされるタイミング

商売センスは、プロダクトの世界観や戦略を考える際にも、具体的な施策を考える際にも役立ちます。以前の記事*2にもプロダクトを八百屋に見立てて施策を検討するという話を書きましたが、プロダクトを八百屋やレストランといったイメージしやすいビジネスに置き換えて構造を分解することで、シンプルにプロダクトを売るために打つべき打ち手が見てきます。

また、プロダクト開発における典型的な失敗例として、「企画時のユーザーインタビューでは好評だったのに、いざリリースしてみると何故か売れない」というものがあります。これは、プロダクトマネジメントの王道であるユーザーインタビューなどの事前検証を徹底しても、防ぐのが難しいものです。ユーザーインタビューで好評であるということと、ユーザーが実際に「対価を払う」という意思決定の間には、思った以上に乖離があります。この乖離を埋めるために、顧客が対価を払う姿をリアルに想像し、売れるかどうかを冷静に見極められる力が必要です。

さらに、経営陣や事業責任者とのコミュニケーションにおいても、商売センスは共通言語として機能します。経営陣や事業責任者がPdMに期待するのは、優れたユーザー体験を実現するプロダクトを作ることと同時に、それがどう事業利益を生むのかという点です。ユーザー体験の話だけでなく、「なぜこのプロダクトが売れるのか」という商売の文脈で語ることができれば、議論はより本質的で建設的なものになります。

このようにPdMが商売センスを持つことで、プロダクトが売れ、事業の成長に寄与できる可能性が一段と高まるのです。では、この商売センスは、一体どのように磨いていけばよいのでしょうか。

商売センスを磨く3つの方法

「センス」と言うと先天的な才能のように思われがちですが、山崎や他のPdMとのディスカッションを通じて、「商売センスは後天的に磨くことができる」と感じています。

ここからは、商売センスの磨き方について、私が山崎や社内のPdMから学んだ3つのアプローチをご紹介します。

1. 本で「基本」を学び、使いこなす

山崎や社内のPdMの話を聞くと、マーケティング理論や『イノベーションのジレンマ』などの名著で語られている本質的な原則に基づいた戦略によって、プロダクトを成長させています。山崎はよく「すべて本に書いてある」と言います。彼らは「基本」を単なる知識として蓄えるだけでなく、実践で使いこなせる武器にまで昇華させているのです。

このように「基本」を武器にするというのは、決してマニュアル通りの型に嵌まることではありません。先人の知恵であるフレームワークや理論を「自分の道具箱」に整理して収め、刻一刻と変化する局面に即して、最適な道具を瞬時に取り出し、適用できる状態にしておく。これこそが、「基本」をマスターした状態なのだと感じています。

基本を学ぶうえで私は次の書籍が読みやすく参考になりましたので、ご紹介します。3巻までありますので、まとめて読むことをおすすめします。

2. ドメイン外の知識を深める

自分の業界(ドメイン)の知識だけでなく、他の領域の事例や知識を学ぶことが非常に有効です。

たとえば、山崎はエムスリーデジカル立ち上げのときに、ドメイン知識だけでなくドメイン外知識を活用し、「GoogleのGmailと同じようなブラウザベースの電子カルテを作れば絶対に売れる」と確信を持ったと言っていました。

これを活かし、自分が担当プロダクトの戦略を考える際にも、このプロダクトのビジネスの本質はNetflix(※Netflixはアナロジーの例としてあげています)と一緒だから、それを参考にしてこの戦略を進めよう、というような考え方をしています。

ここでのポイントは、成功しているビジネスを参考にすることです。たとえば、Netflixをアナロジーとして利用する場合、他の映像配信サービスとNetflixのビジネスの違いを考え、なぜ Netflixはこれほど成功しているのか? 他との違いは何か? といった視点で考えていきます。

「一見関係なさそうな知識」を「自分のビジネス」にアナロジーとして適用できた時、ユニークで本質的な解決策が生まれます。

3. 日々の思考の「型」を磨く

最後に、日々の業務の中で思考の型を意識することです。

  • ワイドオプションで考える:最初から選択肢を狭めずに広く可能性を洗い出す。
  • 常識を疑う:「業界の常識」「今までのやり方」にとらわれない。
  • シンプルに考える:物事を複雑化させず、本質は何かを見抜く。

このような考え方の型について学ぶには、同じくちきりんさんの著書「自分のアタマで考えよう」が非常に参考になります。

現実の社会には誰かがあらかじめ用意してくれた解法が存在しない課題がたくさんあると気がつきました。私はそういった課題に取り組む必要が出てきて初めて、「解法を知ること」と「解法を考えること」は異なることだと理解したのです。

事業を成長させるという「正解のない問い」に立ち向かう時こそ、既存の知識ではなく、自分の頭で考え抜く力が試されます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

本稿では、プロダクト開発を成功に導くためにPdMに求められる商売センスの重要性と、それを後天的に磨く具体的な方法について考察しました。

PdMに必要なスキルは多岐に渡りますが、その1つである商売センスの重要性について、少しでも共感いただけたら嬉しいです。

私も引き続きレベル3のPdMを目指して、商売センスを磨き続けていきたいです。

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*1:ここでは、年間利益 50~100 億を作れるレベルのPdMを指します。詳しくは次の記事をご参照ください。

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*2:www.m3tech.blog