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刺激語カードを使ってソフトウェアレビュー

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こんにちは。エンジニアリンググループ クオリティアシュアランス(QA)チームの中塚(@nk_testtech)です。

10/26(月)に開催されたJaSST Review'20にて『刺激語カードを用いたソフトウェアレビューの実践について ~アイデアを刺激し意識外から観点を得る』というお題で発表しました。 運営の皆様、発表者の皆様、ご清聴いただきました参加者の皆様ありがとうございました。 当日お話しきれなかった点やスライドに盛り込めなかった点なども交え、改めてご紹介します。

刺激語法とソフトウェアレビュー

刺激語法はアイデア発想手法のひとつであり、発想を刺激しそうなキーワード(以下「刺激語」)を書き込んだカードを使ってアイデアを発想していく方法です。*1
連想に繋がりそうなキーワードを単語帳などにストックしておき、刺激語とシステムの要点や仕様とを結びつけて観点を連想していきます。

たとえば、「トイレ」という言葉からは

  • トイレ休憩
  • トイレットペーパー
  • 水を流し、次の人と入れ替わる

といった要素が連想できますが、これらをレビュー対象物と結びつけて

  • トイレ休憩の短い間に急いで操作したらどうなる?トイレ休憩で15分ほど放置した後操作を再開できる?
  • 無いと困るものが常にある状態か?定期的にメンテナンスや監視が必要な要素は無いか?
  • ゴミデータが残らないだろうか?次の利用者にスムーズに明け渡せるだろうか?仮にトラブルが起きて使えなくなった場合、連絡できる仕組みや代替の処理・運用はあるだろうか?

といった観点を得ることができます。

この手法では、長い時間をかけて検討しても思い至ることのできない観点に気付くことを目指しています。

刺激語法のメリットデメリット

メリットとしては以下のようなものがあります。

  • 切っ掛けが無くては誰も気付き得ないような問題に気付ける
  • 汎用性が高い
  • 初めての人でもすぐできる
  • 短時間で多くの観点が出る

一番のメリットは、時間を掛けても気付けないような想定外の問題に気付けるチャンスが生まれることだと思います。 刺激語によって考慮していなかった領域に想像を広げることができ、角度を変えてレビュー対象を見ることで新たな観点を得られます。 また、ストックした刺激語はいろいろなプロダクト、サービスのレビューに汎用的に使えます。

一方で、この手法は網羅性に欠けており、また、検出される観点がレビュアの知見や関心に左右されるという制限があるので注意が必要です。 網羅性を担保できる別手法との併用、知見の深いメンバーや役割の異なる複数のメンバーをレビュアに含めることをおすすめします。

刺激語法をソフトウェアレビューで使うための工夫

レビューに有用な連想をしやすい言葉を刺激語として選ぶことが重要です。 言葉を知らなければ連想できないので誰でも知っている一般的な言葉、ほか、動きを想像できる、状態に関係する、関係性を表す、サービスや業種に関係する言葉がおすすめです。
実践の経験から、このような傾向の言葉をおすすめしますが、もちろんこれ以外を使ってはいけないということではありません。連想を得られる言葉なら何でも大丈夫です。いろいろな言葉を試してみてください!

ソフトウェアレビューでの利用においては、容易に思いつかない観点に気付きたいという目的があるので、システムに関係しない用語を多めにすることをおすすめしますが、システムに関する用語もある程度用意しておき他の刺激語と組み合わせるという使い方もできます。私の使っている刺激語では5%程度をシステム関係の言葉にしています。

また、連想のチャンスを多く持つために、刺激語は普段から集めておき、レビューの際には少なくとも数十Word程度用意しておくことをおすすめします。

刺激語から連想を広げる

刺激語からの連想が行き詰まってしまうことがありますが、このような工夫で新しい連想に繋がる場合があります。

  • システム、ユーザ、データで繋いでみる。
    (例:「捨」…システムがユーザを捨てる、ユーザがデータを捨てる など)

  • マインドマップを使って言葉が持つ要素の連想を広げる

  • 状態に関係する言葉の場合、その気持になりきってみる
  • 刺激語にしたものを観察してみる、または場面を想像する
  • 逆の言葉や似た言葉から連想する
  • 他の言葉と組み合わせる
  • 他レビュアとの会話を通して想像を膨らませる

まとめ

アイデア発想法である刺激語法をソフトウェアレビューに応用する際のポイントをまとめました。 個人でも多人数でも使えてワイワイ盛り上がる楽しいレビュー手法なので、ぜひ試してみてください!

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*1:引用:石井守. 『「誰でもアイデアを量産できる」発想する技術』. エムズクリエイト社, 2016, 第4章7